誰も知らない~奥ちゃんは天才のサクラさん~
ボクは、人間の布団の上でまどろんでいることが多い。
すると、「ピエル!」って、話を聞いてほしい家族がやってくる。
今日は、奥ちゃんだ。
何でも、また、才能を発揮してしまったんだって。
「わたし、プロになれる。 サクラ(偽のお客さん:奥ちゃんは本物のお客さんだけど)の天才だよ。 お客さんの誰もいない店に私が入るでしょ。数分後には、お客さんがいっぱいになってるんだよ。すごくない?」
この才能(?)に、奥ちゃん本人が気付いたのは、4,5年前らしい。
ただ、家族の誰も、「偶然だよ。」と取り合わない。
奥ちゃんはサクラの才能を発揮してるとき、家族に「ほらね」って、証拠を見せることにした。
「さっきまで、誰もいなかったでしょ? ほら、見て!!!」って。
お客さんが誰もいなかった、団子屋さんに列ができる。
雑貨屋さんに、2,3のグループが入ってくる。
誰も見向きもしないで通り過ぎていたセールのカゴに、客が群がる。
ライちゃんも、旦さんも、実際に『奥ちゃん=お客さんが増える』を見てきた。
それでも、こう言ってる。
「それって、一人でも人がいると入りやすいからだよ。偶然だよ。」
〈奥ちゃん、天才サクラ説〉は、支持されない。
でも、本人はしょげていなかったよ。
ボクの頭をなでながら、奥ちゃんは悦に入っていた。
『私は、知らず知らずのうちに、お店を繁盛させてあげてる、いい人だよね。』って。